左ヒラメの右カレイ
7/2(水)、ほぼ快晴。
和歌山県は有田地区漁業青年協議会さんの取り組みを見学させていただきました。
湯浅湾を望む湯浅の海岸は典型的なリアス式海岸で、瀬戸海の内海と太平洋の外海とが交じり合う豊かな漁場をたたえています。
この日も、波は穏やかで、遠浅のリアス式海岸のくぼみにある栖原海岸は、まるでプライベートビーチのようでした。
全国139の取り組みの中でも、ここ有田地区は数少ない漁業体験の場。
西日本ブロックにおける漁業体験は、鹿児島県の「かごしま食農育協議会」さんの取り組みがあるだけです。
今回は、約2ヶ月に渡って養殖施設の水槽で育てられたヒラメの稚魚を、田栖川小学校3~5年生約60名が栖原海岸へ放流する取り組みでした†1。
稚魚を初めて受け入れた5月の中旬ごろのサイズが3cmほど、前回(6/18)の取り組みでは、田栖川小学校5年生(10名)が実際に養殖施設にてヒラメの稚魚に餌やりの体験をしたそうで、そのときのヒラメの大きさが7~8cmだったようです。
で、稚魚を受け入れてから2ヶ月ほど経過した現在、大きいものでは20cmほどにまで成長しています。
ここまで成長させるには、餌やりはもちろんのこと、水槽の水を入れ替え新鮮に保つことも重要で、放流のこの日は水槽からいったん輸送用のタンクに積み替えて車で移動するために、タンクの水温にも気を使われてました(水温が高すぎるとヒラメは死んでしまうので)。
放流の日まで、ヒラメの稚魚に対してできる限りストレスを与えないよう実にデリケートな作業が続くわけです。
養殖施設から車で2~3分ほど走ると、放流する栖原海岸があります。
栖原海岸で準備をしていると、田栖川小学校の児童たちが色もサイズも形もさまざまなバケツを持って集合してきました。
浜辺には車は降りられないので、浜辺の道路から波打ち際までヒラメの稚魚をひとりひとりバケツに入れ替えピストン輸送して放流する段取りです。
まずは、砂浜でパネルやヒラメの模型を使って、「底引き網漁業」、「定置網漁業」、「養殖漁業」といった漁業や漁法の種類、および約1年後に漁獲するヒラメの大きさなどについて説明がありました。
説明の中では、せっかく稚魚を放流しても、一般の釣り客がまだ十分なサイズにも満たない魚も釣り上げて持って帰ってしまうことが多いので、もしみんなも釣りをして小さな魚を釣った場合は逃がしてあげてねともいわれていました。
また、どうしてヒラメの稚魚を放流するのかについて以下のよう説明がありました。
漁師は魚を獲って生計を立てていること。
ただ獲り過ぎてしまうと水産資源が枯渇すること。
これからも漁業を続けていくために、自ら稚魚を育てて放流することで水産資源と海洋環境を確保していくことが必要だと感じていること。
私たちの活動は小さなことかもしれないが、ほかの地区でも徐々に放流活動が広まっていけばという思いで、みなさんにも知ってもらいたいということ。
説明のあと早速今回の取り組みである放流を行います。
児童たちが自分たちで持参したバケツに10~15匹ずつヒラメの稚魚を入れて海岸まで運び、海辺に少し入ったところで静かに稚魚を海に放流します。
ここでのポイントは、少し海辺に入ること。
そうしないと、ヒラメの稚魚たちが波に乗れず砂浜に打ち上げられてしまうからです。
思い思いに持参したバケツ。
大きいのや小さいの、四角いのやら丸いのと、色とりどりでしたが、中にはちょっと小さすぎない?と思うものから、穴が開いたバケツを持ってきている児童もおり、笑いを誘っていました†2。
ヒラメの稚魚をバケツに小分けにしてもらった児童たちは、いそいそと浜辺で放流を始めます。
教えられたとおりに、少し海に入って稚魚を静かに海に返します。
しかし、ヒラメの稚魚にとっても初めての海。
狭い水槽で生活していたときと状況が一変、大海原を前にしてパニックになったのか、波打ち際に戻ってくる稚魚もちらほらいました。
そんな稚魚を見つけた子どもたちは、それを手で捕まえて「わ~!ヌルヌルする!」とか、「早く逃がしてあげて!」とか、「ぎゃー!足に何か触った!」とか、「足元にいるから踏んだらあかんで!」と大騒ぎ。
そんな中、ある児童が、波打ち際に何かが埋まっているのを発見した様子。
児童A:これなんやろ?
児童B:葉っぱちゃうん?
謎の物体:・・・・
児童B:触ってみたら?
児童A:(恐る恐る指でつまんでみる)
謎の物体:(驚いて砂地より泳ぎだす)
児童A・B:わっ!!!ヒラメやん!!!
一方、バケツから稚魚を一匹一匹手ですくい上げては、愛しそうに海に放し、海の中のヒラメをじっと観察している子どもも見受けられました。
当然ながら、中にはヒラメに触れない子どももいましたし、海自体を少し怖がっている様子の子どももいました。
そんな児童は友だちに手伝ってもらって、代わりに放流してもらっていましたが、それはそれで自然な行いなのです。
放流も無事に終わり、最後に有田地区漁業青年協議会長さんが児童に対して次のようなメッセージを投げかけて締めくくられました。
今日、みんなで放流したヒラメの赤ちゃんが、1年後には大きくなって帰ってくるでしょう。
漁をして、もしかしたら自分たちが放流した魚が獲れるかもしれません。
そのときは、あのとき自分が放流したヒラメかも知れないと思って、大切に美味しく食べてやってくださいね。
自分たちで育て、自然に帰し、その恵みを再びいただくという一連のプロセス。
漁師さんらしい無骨で短いセリフですが、今年度をとおして、児童たちを含めた参加者ひとりひとりに伝わればいいなと思いました。
ここからは蛇足です。
今回有田地区で窓口になっていただいているご担当者との立ち話の内容です。
生産現場だけでなく流通部分も含めて漁業の置かれている状況は非常に厳しいこと。
だからこそ、教育ファームのような取り組みについて、もっと情報がうまく伝わっていれば、ほかの漁家でもやりたいという声が上がったかもしれないとおっしゃっていました。
始めにも書きましたように、全国139団体の取り組みの中で漁業体験は圧倒的に少ないのが現状です。
また、漁業は魚を獲っても、それが売れなければ生計が立たないという根源的な問題についても触れられて、例えば、有田地区は太刀魚の漁獲高日本一でありながら、スーパーの店頭に並んでいるのは外国産の太刀魚だったりする現状。
切り身になっているとはいえ、大きさや背びれの具合で外国産であることは一目瞭然で、なぜ地元で美味しい魚が獲れるのにわざわざ割高な外国産の魚を食べているのかと、温和な表情も曇っておられました。
現在のところ浜値(はまね)で、アジ1本が約60円だそうです。
しかも、間違いなく安くて美味くて新鮮で安全であるに違いありません。
課題としては、地域の人たちに地元の水産物(販売ルートも含めて)についてあまり知られていないということもあり、この教育ファームを通じて、学校、保護者、地域などに地元の魚をもっと利用してもらうきっかけになればという思いもあるそうです。
教育ファームに対する思いも、立場の違いや地域によってさまざまなだと痛感しました。
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